川上弘美、ざらざら。
お風呂で読んでたのを長らくほうっていたら、帯がべりべりにひっついていた。
「同行二人」から三編読んだ。
「春の絵」で涙が出るかと思った。
「かみ、長いな」おれが言うと、女は、こんど切ろうと思って、と言った。「切るなよ」おれが言うと、女はびっくりしたような顔になった。「なんで」 「なんででも」言いながら、自分の顔が赤くなるのがわかった。女はパンダバッグを大きく前うしろにふりながら、かけだした。空が広いよ。うたうように言って、女は丘のてっぺんをめざした。おれもあわてて、女を追った。
「春の絵」116ページから。
おれ、は、小学四年生。
パンダバッグを大きく前うしろに、のところからもう、心が高まって、目の前のスコーンとコーヒーのテーブルに切れ目がはいり、丘のある公園が覗いた。
我に返ったあと、コーヒーすすったら、冷えてた。かえろう。